『会社四季報』でウォッチ銘柄を選ぶ基準
株式投資をするうえで、多くの個人投資家が頼りにしている情報源のひとつが『会社四季報(かいしゃしきほう)』です。年に4回発行されるこの分厚い本には、日本国内の上場企業すべての業績や財務情報、事業内容、将来の見通しなどが網羅されています。まさに「投資家のバイブル」とも言える存在です。
しかし、ページ数は3,000ページ近くあり、「何をどう見ればいいのか分からない……」という方も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、『会社四季報』を活用して「ウォッチ銘柄」を選ぶための基準をわかりやすく解説していきます。
ウォッチ銘柄とは?
まず、「ウォッチ銘柄」とは何かを明確にしておきましょう。
ウォッチ銘柄とは、今すぐに買うわけではないが、将来の投資候補として定期的にチェックしておきたい銘柄のことです。
まだ株価が割高だったり、市場全体の状況が良くなかったりしても、「この会社は将来性がある」と感じた企業をリストアップしておくことで、チャンスが来たときにすぐに投資判断ができるようになります。
短期売買に慣れていない初心者や中長期投資を目指す方にとって、ウォッチ銘柄のリストを持っておくことはとても大切です。
『会社四季報』で見るべき3つの基準
では、『会社四季報』からどのようにしてウォッチ銘柄を選べばよいのでしょうか?
本記事では、次の3つの基準に注目して、銘柄選定の方法を解説していきます。
- 売上高・利益が10%以上成長しているか?(成長性)
- 営業利益率が10%以上あるか?(収益性)
- PERが許容範囲より低いか?(割安性)
この3つを軸に見ていけば、業績が良く、成長性があり、投資妙味の高い企業を見つけやすくなります。
第1章:成長性重視!売上高・利益が10%以上成長しているか
投資の世界でよく言われるのが、「株価はその企業が将来あげる利益で決まる」という考え方です。
これはファンダメンタル分析の基本的な考え方であり、短期的な需給ではなく、長期的な業績成長が株価を押し上げる主な要因になるということです。
では、どのようにして「成長性」を判断すればよいのでしょうか?
答えは、『会社四季報』にしっかりと載っています。
売上高と利益の「10%以上成長」に注目する理由
『会社四季報』には、各上場企業の7期分の業績データが掲載されています。具体的には、以下のような期間が対象です:
- 過去5期(実績)
- 今期(会社予想または四季報予想)
- 来期(予想)
この中で最も注目すべきは、「前期→今期」「今期→来期」の2つの期間の成長率です。
特に以下の条件を満たしているかを確認しましょう:
- 売上高が10%以上増加しているか?
- 営業利益や純利益が10%以上増加しているか?
この成長率は、「この企業のビジネスが順調に拡大しているかどうか」の重要な判断材料になります。
「1株益(EPS)」が伸びている企業を狙う
利益成長を見るうえで、特に注目したいのが1株益(EPS: Earnings Per Share)です。
EPSの計算式:
EPS = 親会社株主に帰属する当期純利益 ÷ 発行済株式数(期中平均)
EPSが伸びているということは、1株あたりの利益が増えているということになり、これに連動して株価も上昇しやすくなります。
たとえば、EPSが100円から110円、121円と、毎年10%ずつ増えていれば、理論的には株価もそれに追随して上がっていく期待が持てます。
成長性が株価を動かすメカニズム
企業の売上高や利益が継続して増えていくということは、その企業の商品やサービスが市場に受け入れられ、需要が伸びている証拠です。
仮に、売上と利益が2倍になったとすれば、理論上は株価も2倍になると考えるのがファンダメンタル投資の基本です(もちろん、株価は短期的には需給など他の要因でも動きますが)。
このように、「売上高・利益が10%以上成長しているか?」というのは、将来の株価上昇のポテンシャルを測るための重要な判断基準なのです。
実際に『会社四季報』のどこを見ればいい?
『会社四季報』では、銘柄ごとに以下のような業績データが表になっています:
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | EPS(1株益) |
---|---|---|---|---|---|
前期 | 数値 | 数値 | 数値 | 数値 | 数値 |
今期予想 | 数値 | 数値 | 数値 | 数値 | 数値 |
来期予想 | 数値 | 数値 | 数値 | 数値 | 数値 |
この「今期予想」「来期予想」の数値が、前期からそれぞれ10%以上増えているかをチェックしましょう。
四季報では、小数点以下の伸び率も掲載されていることが多く、前年同期比での増減が明示されている場合もあるので、まずは「成長率」に注目して候補を絞っていくのがコツです。
株価は将来の利益に連動する
売上高・利益が10%以上成長している企業は、将来有望
EPSが右肩上がりに伸びているかを重視する
『会社四季報』の「今期・来期予想」で10%以上の成長を確認
収益力の証!営業利益率10%以上を目指せ
前章では「売上高・利益が10%以上成長しているか?」という“成長性”の観点から銘柄を選ぶ方法を紹介しました。
成長性に加えてもうひとつ重要な視点が、**「収益性」**です。
いくら売上が伸びていても、儲けが少なければ企業としての体力は乏しく、株主へのリターンも期待しづらくなります。
そこで注目すべきなのが、営業利益率という指標です。
営業利益率とは?
まずは、営業利益率の意味とその計算方法を確認しておきましょう。
営業利益率の計算式:営業利益率(%)= 営業利益 ÷ 売上高 × 100
なぜ営業利益率が重要なのか?
営業利益率が高い企業は、それだけ本業で効率よく稼げていることを意味します。
例えば、同じように売上100億円の会社があったとしても、
A社の営業利益:10億円(営業利益率10%)
B社の営業利益:3億円(営業利益率3%)
この場合、A社の方が圧倒的に「稼ぐ力」が強いことがわかります。
営業利益率が高い企業は、以下のような特長を持っている可能性が高いです。
- 競合他社にはない独自の商品やサービス(高い付加価値)を持っている
- 市場での価格競争に巻き込まれにくい
- 業務効率やコスト管理が優れている
- 安定した顧客基盤を持っている
こうした企業は、不況時にも利益を維持しやすく、株主にとっても安心感のある投資先になります。
営業利益率10%がひとつの目安
日本企業の営業利益率の**平均はおよそ3〜4%**といわれています。
それを考えると、「営業利益率10%以上」の企業は、平均の2〜3倍の収益性を持つ優良企業と言えるでしょう。
もちろん、業種によっても基準は変わります。
たとえば、
小売業や外食産業:利益率が低くなりがち(2〜5%前後)
ソフトウェアや製薬、コンサル:高い利益率が出やすい(10〜30%)
というように、業界特性に応じた目線の調整も必要ですが、全体のスクリーニング段階ではまず「10%以上」を基準にすることで、収益力の高い企業を効率的にピックアップできます。
利益率が高い理由を考えるクセを持とう
営業利益率が高い企業に出会ったら、「なぜこの会社はこれだけ利益率が高いのか?」を考えてみることが大切です。
考えられる理由としては:
ブランド力があり、高価格でも商品が売れる
他社にマネできない技術を持っている
顧客が継続的に利用するビジネスモデル(SaaSなど)
コスト構造が軽い(在庫や店舗を持たないなど)
単に数値を見るだけでなく、その背後にあるビジネスモデルや企業の強みにも注目することで、投資判断の精度が上がっていきます。
薄利多売モデルには要注意
一方で、売上が大きくても利益率が極端に低い企業には注意が必要です。
たとえば、
利益率1〜2%でも規模(売上高)で勝負している
常に価格競争にさらされている
利益が出にくい構造の業界に属している
といった場合、業績の安定性が欠けており、ちょっとしたコスト増や景気悪化で簡単に赤字転落してしまうこともあります。
『会社四季報』ではどこを見る?
営業利益率は、四季報の業績欄には直接的には書かれていないことが多いですが、「営業利益」と「売上高」は必ず載っていますので、自分で簡単に計算できます。
たとえば、
売上高:1,000億円
営業利益:120億円
ならば、営業利益率は
120 ÷ 1000 × 100 = 12%
という計算になります。
エクセルや計算機を使えば、複数銘柄を一気に比較することも簡単です。
- 営業利益率は、その企業の本業の収益力を測る指標
- 平均は3〜4%、10%以上あればかなり優良と判断できる
- 利益率が高い理由を考えることで、企業の強みが見えてくる
- 四季報の「営業利益」「売上高」から自分で簡単に算出できる
第3章:割安かどうかを見抜く!PER(株価収益率)のチェック
これまでに「成長性」と「収益性」の2つの基準についてお伝えしました。
しかし、いくら成長性と収益性が高くても、その銘柄の株価がすでに高すぎる場合は、投資対象としての魅力が薄れてしまうこともあります。
そこで重要になるのが、株価が割安か割高かを判断する指標=PER(株価収益率)です。
PER(株価収益率)とは?
PER(Price Earnings Ratio)とは、現在の株価が「1株あたりの利益(EPS)」の何倍にあたるかを示す指標です。
PERの計算式:PER = 株価 ÷ EPS(1株益)
たとえば、
株価:1,500円
EPS:100円
の場合、PER = 1,500 ÷ 100 = 15倍
となります。
この「15倍」という数値が、企業の収益力に対してどれだけ株価が評価されているかを示す目安になります。
PERは何倍なら「割安」なのか?
一般的には、PERの目安は以下のように考えられています:
PER15倍以下:やや割安〜適正
PER10倍以下:割安(バリュー株とされやすい)
PER20倍以上:やや割高
PER30倍以上:かなり割高(要注意 or 高成長期待株)
ただし、これはあくまで「現時点の利益水準」に基づいた評価です。
PERだけで「高い=ダメ」「低い=良い」と決めつけるのは早計です。
高PER=悪ではない!?成長期待がある銘柄の見方
成長性が高い企業は、将来の利益がどんどん伸びると期待されているため、現在の利益水準に対しては割高でも、投資家に買われやすい傾向があります。
たとえば、現在PERが「100倍」という超高PERの銘柄があったとしても、以下のように利益が成長すれば、将来的には適正水準に落ち着いていきます:
今期:EPS 10円 → PER 100倍(株価1,000円)
来期:EPS 20円 → PER 50倍(株価変わらず)
翌期:EPS 40円 → PER 25倍
その翌期:EPS 80円 → PER 12.5倍
このように、利益が倍々で成長する企業では、高PERでも将来の業績により「割高感」が解消される可能性があるため、「高PER=NG」とは言えません。
低PERでも注意が必要なケース
逆に、PERが低くても安心できない場合もあります。
たとえば、
一時的に利益が膨らんでいる(来期は減益予想)
成長が止まっている or 業界全体が斜陽
特別利益でEPSが上がっているが継続性がない
といったケースでは、PERが低くても将来の利益が見込めなければ株価が上がらない、もしくは下落するリスクもあります。
重要なのは、「なぜPERが高い(or 低い)のか?」を見極めることです。
『会社四季報』でPERを見るポイント
『会社四季報』には、PERが明示されている欄があります(銘柄ページの右側または下部にあるデータ表)。
確認すべきは以下の2点です:
今期予想PER
来期予想PER(※あれば)
これらを比較することで、
来期に向けて利益が伸びればPERは下がる
利益が減ればPERは上がる
という、“PERの変化”から企業の将来性を読み取ることができます。
また、同じ業種内の企業とPERを比較することも重要です。たとえば、
A社:PER 18倍(業界平均が25倍 → 割安)
B社:PER 40倍(業界平均が20倍 → 割高)
といった判断ができるようになります。
- ERは「株価が1株益の何倍か」を示す指標
- 一般的な目安は15倍前後(業種により変動あり)
- 高PER=成長期待、低PER=安定性 or 将来性乏しい場合も
- 『会社四季報』の今期・来期予想PERを必ずチェック
- 同業他社と比較することで割安・割高を見抜ける
PERをうまく活用することで、「いま注目している銘柄が“買い時”かどうか」を冷静に判断できるようになります。
『会社四季報』のどこを見ればよいか?実践的なチェック法
これまでにご紹介した3つの基準
(①売上・利益の成長性、②営業利益率、③PER)
はすべて『会社四季報』に掲載されている情報から判断できます。
この章では、実際にどこを見ればよいのか、ポイントを絞って解説していきます。
🔍 四季報の基本構成を理解しよう
『会社四季報』の1銘柄ごとのページは、大きく以下の構成になっています。
- ① 企業情報(社名、業種、特色など)
- ② 株価情報(株価、PER、PBR、配当など)
- ③ 財務・業績データ(売上、利益、EPSなど)
- ④ コメント欄(業績見通し、トピックスなど)
成長性(売上・利益の10%以上成長)が「前期→今期」「今期→来期」で10%以上成長しているか確認
営業利益率10%以上。業界平均(3〜4%)と比べて高いかどうかを確認
PERが15倍以下の割安か確認
数値の裏にある「なぜ伸びているのか?」を読み解くヒントを
四季報のコメント欄などを読んで確認
ウォッチ銘柄を持つことで投資力が上がる
『会社四季報』は、すべての上場企業の情報が1冊にまとまっている「日本最大の企業データベース」です。
だからこそ、正しく使えば、投資家にとって非常に強力な武器になります。
しかし、いきなり「この銘柄を買う!」と決めるのではなく、まずは「ウォッチ銘柄」を選ぶことが、初心者にも中長期投資家にもおすすめのステップです。
ウォッチ銘柄を持つ3つのメリット
いつでも“買いチャンス”に動ける
市場が大きく下落したとき、成長性の高い銘柄をすでに把握していれば、すぐに買いの判断ができます。
企業分析の目が養われる
四季報で同じ企業を追い続けることで、「この会社は本当に強いのか?」という目が育ってきます。
冷静な判断ができるようになる
一度ウォッチリストに入れて観察することで、衝動買い・雰囲気買いが減り、理性的な投資行動が取れるようになります。
株価は“短期は需給、長期は業績”
短期的には、株価は「誰がどれだけ買ったか・売ったか」という“人気投票”で動きます。
しかし、長期的には必ず「業績」によって評価されます。
だからこそ、
売上・利益が10%以上成長しているか?
営業利益率が10%以上あるか?
PERが割安 or 将来成長を織り込んでいるか?
といったファンダメンタル分析に基づいた視点が、投資で勝ち続けるための土台になります。
『会社四季報』を使ったウォッチ銘柄選定の基準を身につければ、あなたの投資判断の精度は間違いなく上がります。
焦らず、着実に、自分だけの「投資の地図」を作っていきましょう!